スーパーサイエンスハイスクール(SSH)

生徒の研究成果

世界の決まり、国際法

国際法について研究していらっしゃる、児矢野 マリ先生(大学院法学研究科教授)にお話を伺いました。

児矢野 マリ先生

Q.国際法って具体的にどんな法律なんですか

国際法とは国家間の法律のことです。国際社会はたくさんの国家が集まって出来ています。その国家間の関係を規律する条約や慣習法が国際法です。慣習法としては、例えば公海自由の原則や内政不干渉の原則などがあげられます。

Q.国どうし考え方が違うけど、条約は作ることができるのか

条約を作る際、各国は自国の利益を損なわずに条約規定を作成するために非常に長い時間をかけて自国の憲法・法律との兼ね合いを考えながら利害調整を行っていきます。実際に作るときには、たとえば国連の下たくさんの国が集まって交渉をし、条文を一個一個つくっていくのです。なので一つの条約を作るのに10年くらいかかることもあるんです。たとえば国連海洋法条約という海の秩序を定める条約は実際に10年程かけてつくられました。

Q.具体的な研究方法は

国際法である条約や慣習法に基づいて国家は何をしなくてはならないのか、また、することができるのか、ということを、条約の条文規定のあり方、国際裁判所の判決、外交文書や国内裁判所の判決といった国家の実行などを分析することにより、明らかにします。その際、条約は国家間の話し合いのうえで成立したり変更されたりするので、研究においてもその点を重視して、条約の作成交渉や成立した条約の下で開催される会議の議論などにも注意を払います。また、他の研究者の議論も検討します。

児矢野 マリ先生

Q.なぜクジラが大幅に減少したのか

大幅に減少したクジラは、たとえば南極海のシロナガスクジラなどです。その主な理由は20世紀初めにノルウェーが開発した、大型の船で船団を組んで沖まで行き、そこで獲ったクジラを船の上で解体して持ってくるという「母船式捕鯨」などにより、20世紀半ば頃までに欧米諸国や日本がそれらクジラを獲りすぎたことが大きな理由です。当時、多くが捕鯨国であった欧米諸国では燃料やマーガリンを作るためにクジラから取れる「鯨油」が大量に必要とされ、それに伴い一回でたくさん鯨油が獲れる大型のクジラの乱獲が行われました。

Q.条約をつくるとき、平等にならないのでは?

国際社会では国家は主権平等なので、どの国も一票をもっているという意味では平等です。けれども、アメリカのように政治や経済でパワーをもっている国もあるので、実質的には平等にならないことも多いです。ただ、パワーのある国も自国の利益だけ主張しては他国から支持されず条約を作ることは難しいので、条約を作るためにはそれぞれの国が妥協しなくてはなりません。なので「どの国も完璧に満足できない条約」が一番いいと言われています。

Q.国際法に『抜け穴』のようなものはあるのですか?

国際法は、国内法に比べて強制力は弱いです。なぜなら国際社会においては中央集権的な統治機構、日本でいう内閣や国会のようなものが存在しません。だから、どこかの国が条約を違反したときにどのような制裁があるのか、という問題があります。できることは条約会議で条約をきっちり守るよう勧告の決議をして各国で圧力をかけるくらいのことです。結局国際法は違反した場合の強制力がとても弱いものなのです。ですが、そもそも守りたくなければどんな国もその条約には加盟しません。条約に加盟し、取り決めを守ることにメリットがあるから加盟しているので、どの国も基本的には逸脱行為はしません。こうして、国際法は実はよく守られています。

Q.持続可能な漁業とは

持続可能な漁業とは現在のみならず将来も漁業出来るように、資源が増えることも考えながら、人間が獲る量を調節して行う漁業です。

魚や、クジラなどの海洋ほ乳類は海洋生物資源と言われます。海洋生物資源は石油や石炭とは違って再生可能な資源なので、20世紀半ば頃までは一般に枯渇することはないと考えられていました。しかし、第二次世界大戦後の科学技術の向上により冷凍技術が進んで遠洋漁業が盛んになり、漁獲技術も進んで資源の乱獲が問題になってきました。捕鯨は、先ほど述べたように20世紀初めから南極海ではクジラの大規模な母船式捕鯨が行われるようになりました。資源量の回復するペースが人間と似ているクジラは、乱獲の結果一定の種類によっては数が一気に少なくなり、20世紀半ばにはたとえばシロナガスクジラが絶滅の危機に瀕してきました。そしてそのとき、ようやくそれが注目され始め、漁期や漁獲高などの規制を含む条約が作られました。

国際法は国家の主権が及ぶ領域を決めています。海を例えにすると、公海は19世紀までには公海自由の原則でどの国のものでもなく、どの国も資源を自由に捕れるとされていました。公海に含まれる大陸棚には石油や天然ガスや魚が多くいます。第二次世界大戦後になると、多くの植民地が独立して、たくさんのアジア、アフリカの国々が国際社会にはいってきました。科学技術も進み、大陸棚に埋まる石油や天然ガスの開発が可能になり、どの国もそれを欲しがるようになりました。ところが、公海自由の原則とは、結果的に「早い者勝ち」になるということで、途上国はお金と技術が先進国に比べて無かったので、海の資源の開発では先進国が圧倒的に有利でした。このような背景もあり、諸国は大陸棚に主権的権利を設定することに合意し、1958年に条約によって大陸棚に主権的権利が設定されました。

児矢野 マリ先生

Q.なぜ捕鯨国とそうでない国は対立しているのですか?

1960年代まで欧米諸国が鯨油を採るために捕鯨をやっていましたが、20世紀半ば頃からオランダ、アメリカ、イギリスなどが石油を主要な燃料として利用するようになったこともあって次々と捕鯨をやめ、結果的にノルウェー、ロシア、アイスランドなどを除く欧米諸国はほとんどが捕鯨をやめました。国際捕鯨取締条約ができた1940年代には加盟国はみんな捕鯨国でしたが、1970年代には環境保護運動も活発化し、欧米の人々の捕鯨に対する意識が変わり始め、捕鯨の位置づけが国の中で変わっていった国も多かったことから、捕鯨国とそうでない国の対立が起きたのですね。

Q.国際捕鯨取締条約に加盟しない捕鯨国があると、国際法の意味がなくなるのでは?

意味がないとはいえませんが、国際法による規制は実質的に弱まりますね。国際法とは国家の合意で、とくに条約はそれに入らなければ拘束されません。条約に自分たちが拘束されたくないなら入らなければよいのです。なので、国際捕鯨取締条約に拘束されたくなければこの条約に入らなければよいようですが、国連海洋条約という条約にはとても沢山の国が入っていて、その条約の中にも捕鯨は国際機関を通じてやらなければならないとしっかり書いてあります。一般には、ここにいう国際機関とは国際捕鯨取締委員会を意味するといわれています。だから、多くの国は、捕鯨をやりたければ国際捕鯨取締条約に入ることが必要と考えています。なお、ノルウェーは商業捕鯨が1982年に禁止された時に異議を出したためノルウェーは条約に反しない形で国際的な批判も浴びずに商業捕鯨を続けています。日本も同じように異議申立を出したのですが、当時のアメリカとの関係でその異議を撤回しました。

Q.日本はなぜこんなにも批判されているのですか?

日本は、商業捕鯨はしていませんが、他方で国際捕鯨取締条約に基づく調査捕鯨として南極海で鯨を捕っています。その捕った鯨肉が国内で販売されているので、結局はそれも商業捕鯨になるのではないかとみられているからです。他方で、ノルウェーは実際に商業捕鯨をやっていますが、すでに述べたように商業捕鯨の禁止に異議を申し立てているので、日本とは違って合法的に商業捕鯨を行うことができるため、他国から批判されていません。同じように捕鯨をやっている国どうしでも扱いが大きく違うのですね。

Q.国際法を学ぼうと思ったきっかけ

日本は明治時代に国内の法律制度が大きく転換しました。江戸時代まで鎖国をしていた日本が国際社会に入ったのもその時代でした。そして、国際社会で欧米列強と対等な主権国家として認められるために、西洋近代法制度を取り込んで国内の法律制度を変えていく必要があったんですね。私は、このように国際法によって日本の中の法律制度が変わっていくことに興味を持ち、そうした国際法を深く勉強したくなったからです。

Q.仕事における信念は何ですか?

国際法は国家間の妥協によって成立するものですが、自分は仕事において妥協をしないこと、わからないことは自分が納得するまで突き詰める探究心を常に持つようにしています。

児矢野 マリ先生

Q.この仕事をしていてよかったと思う瞬間は?

いつも良かったと思っているので、瞬間ということは無いですね。でも、「もう少しこういった所をこのようにすることで世の中が変わるかもしれない」といった問題提起とそれに対する提言ができた時はうれしいと思います。

やりがいを感じる時は、物事を突き詰めていった先になにかを見つけた時です。それから、国際法を教えた学生が国際法について興味をもってくれたり、教えたことをヒントに一生懸命考えて、新しい何かを得たり、答えを出すことができたときにはとてもやりがいを感じますね。

研究の面では疑問に思っていてわからなかったことの答えが見つかり、それが社会で少しでも役立つものだった時ですね。

児矢野 マリ先生

高校2年
末國 真子,伊藤 千晴,日野浦 敢太,奥山 遼太