スーパーサイエンスハイスクール(SSH)

生徒の研究成果

タイガ林から学ぶ地球環境の変化

現在、北極域では研究があまりされておらず、自然環境の解明に至っていないようです。そこで、私たちは北極域を研究対象に調査を行っている、北海道大学環境化学教授、杉本敦子さんのもとを訪れました。

杉本 敦子先生

(今までのフィールドノートを持つ杉本教授)

Q.北極域を研究テーマにしようと思ったきっかけは何ですか

もともと地学が好きで、高校の時の地学の先生が「生物も物理も化学も数学も地学をするためにあるんだ」などとおっしゃる面白い先生でした。「地球の仕組みを知る」というのが地球科学だと認識しているのですが、そのためには全ての学問と分野が必要だと思います。

私は水循環に興味がありました。それがタイガ林の研究を始めるきっかけとなりました。

全ての生物にとって水は必要なものですし、地球の仕組みという意味でも水は色々な物質を運んでいます。水は生態系を流れる血液のような存在です。

杉本 敦子先生

地学を専攻し、地球物理の分野で博士号を取得し、その後、ポスドクで温室効果ガスの研究を始め、生物の分野をはじめて勉強しました、そして生物と水の両方ができる分野を模索していました。メタンの発生量は水分に依存しています。北極域は地球温暖化の影響が顕著に現れる場所で、凍土の融解が水分環境を変え、植生を変え、メタンの発生量を変化させます。そこで北極域の湿地と森林が混在する場所を研究するに至りました。

Q.現地でのフィールドワークについて詳しく説明をお願いします

主要な場所は二ヶ所あり、北極圏の方はチョゴルダという小さな村でやっています。その村に民家を借りて寝泊りし、フィールドまでは30分~1時間かけて行きます。ドリリングという、土に穴を開けて細いコアというものを取り出す作業をします。それから有機物やメタンの内容量を調査します。

杉本 敦子先生

(チャンバー [アクリルでできた円筒形のもの] )

また、チャンバーを被せ、地表面から放出される空気を採取します。被せてすぐ、10分後、20分後、30分後といったように空気を採取し、持ち帰ってその空気中のメタンの濃度を測定します。メタンの増え方でどれだけメタンが出てくるのかというのを調べることができます。

杉本 敦子先生

(写真内の白い点のようなものは全て蚊)

彼は木の葉にチャンバーを被せて、葉がどれだけの速度で光合成をしているかを調べています。

現地では蚊が多く皆ネットをかぶっています。私はあまり好きではないのでかぶってはいませんが。

Q.現地の方とのエピソードをお願いします

私たちは、地球環境に対して「メタンが増えると温室効果ガスが発生する」といったことを頭に入れています。

しかし、現地の方は「自分が毎日飲んでいる水は大丈夫か」などといった、とても身近なことに興味があることにギャップを感じました。

それと、とても「自然と共に生きている」という感じがしました。

例えば、学校の子供たちは、私たちが観測しているような場所で一ヶ月もサマースクールをしています。小学生が親元を離れ、水道も電気もないような場所でキャンプをするのです。日本に比べて、自然と接する機会が多いことに驚きました。

杉本 敦子先生

(大学院生の北山さん)

年輪を薄く、一枚ずつ切っています。年輪の黒白それぞれの、炭素の同位体比を測るとどのくらい土壌水分があったのかなどを調べることができます。

杉本 敦子先生

(研究室にて、サンプルの中身を真空状態にする機材)

ここではトレーサー実験もしています。

トレーサー実験というのは、重い同位体を人工的に加えて追跡する実験です。

植物を通して地表面からメタンが発生する時に、大部分のメタンは酸化されてしまいます。メタンを食べる(つまり酸化する)微生物の働きによって、土壌中でできるメタンよりも地表面から出てくるメタンの方が少なくなります。メタンがどのくらい二酸化炭素になるのかを調べて、メタンがどれだけ酸化されているのかを調べようとしています。

私たちが一番知りたいことは、北極域からどのくらいメタンがでてくるのかということです。それがもし分かれば、地球がどれだけ温暖化するかということが予測できます。その一環としてトレーサー実験をしています。

杉本 敦子先生

(メタンを固体化するための液体窒素)

Q.機械が苦手でも実験室で活動できるのでしょうか

機械を作るというわけではないので皆意外とできます。

基本的にメタンを入れたら分析されて出てくるシステムになっていますので。ただ機械は時々機嫌を損ねますので、なだめつつやっています。

杉本 敦子先生

(フィールドノートの中身)

これはフィールドノートです。中には蚊が挟まったページもあり、それだけフィールドではたくさんの蚊が飛び回っています。調査の妨げになるので、蚊対策は不可欠です。

ですが、長年北極域で調査している私にとってもはや「蚊は空気の一部」です。

高校2年
梅津 朱子,山本 大夏,斉藤 真由,井手 皓太