脳の秘密を解き明かせ
私たちが生きるために、欠かすことができない「脳」。しかし、脳はその機能がまだ解明されていないことも多くあるといわれています。
今回は医学研究科・医学部医学科神経生理学分野教授の田中真樹先生をお訪ねし、詳しくお話を伺いました。
心理学と脳の研究について田中真樹先生にお話を伺いました。先生は、医学研究科・医学部医学科の神経生理学分野で教授として研究を行っています。
田中先生
脳に興味があったからですね。私が大学に入る前年の1987年に、利根川進先生がノーベル生理学・医学賞を取られて、これからは分子生物学の時代だと思いました。しかし、大学で勉強を進めるうちに、分子では説明できない脳の情報処理に興味をもったのです。
文系の心理学では、心がどういうものであるかを研究しますが、医学ではシナプスなど生物学的なところから研究します。私はこの二つには共通するところがあると思っています。人間が何かを考えたとき、脳のどの細胞がどう働いたか、というのを説明したいんです。
二つに大きな違いがある訳ではありません。心理学は、脳の研究の中でも一番上のレベルにあります。あるテストをしたときの心の状態を調べるような研究や、脳の何処にどんな機能があるかを調べる研究もあります。それらを繋ぐために、実際に心理学の実験をしている時の脳の状態を調べるのです。
心理学の中で我々が特に興味を持っているのは錯視などを扱う心理物理学という領域です。実験だけじゃなく、患者さんに心理検査をしたりもしています。例えば、「動いているものをずっと見ていて、急にそれが止まると逆向きに動いて見える」現象は、脳の動きを感知する場所でニューロンが活動していることで説明できるんです。
ニューロンの発火を波形で表したもの
心が脳にあるのか心臓にあるのかというのはよくある質問ですが、心臓移植をしても貴方は貴方のままですよね。でも、脳の一部に障害を受けると人格が変わったり、ものが考えられなくなってしまいます。そう考えると、心は脳にあると言えるのではないでしょうか。
脳というのは一つのネットワークですから、その一部を切り取ると全体が働かなくなってしまいます。だから誰も脳移植をやろうとはしないんです。しかし、脳の一部が失われてしまった場合、その部分を補完するために神経幹細胞を入れるという治療は行われています。
電気刺激を与えて脳をコントロールすることも可能なんですよ。忘れてしまったことを思い出したり、忘れないように記憶を脳に固定することも、理論的にはできるはずなんです。
研究室の様子
脳は学際的だといわれています。歯学部や文学部など、色々な分野で研究が進められています。脳の研究をしたいと思ったとき、必ずしも医学部じゃなくていいんです。それが、脳の面白いところではないでしょうか。
真剣な面持ちで話を聞く立命館慶祥高校の生徒達
三人の娘と息子がいます。でも脳研究の質問は意外にもされることがなく、逆に、私が娘にこれらの講義の話をすることがあります。ちなみに8月6日に北大のオープンキャンパスで、「高校生のための脳科学講義」をします。毎年応募開始から15分くらいで締め切りになってしまいます。
家にいるときは、普通のお父さんと同じように、くつろいでいたりスーパーに買い物に行ったりします。夏には趣味の釣りに行きます。そのときは息子たちと男同士で釣りを楽しんでいます。
やはり家にいる時間よりは、仕事をしている時間の方が長いです。毎日の帰宅時間は夜中になってしまいます。研究者が皆、夜遅くまで残っているのではなく、そこは人それぞれみたいです。
論文が分かってもらえないときや、人を納得させられないときなど、嫌になることはあります。また、時間的に研究できなくなる時もありますし、研究費がうまく獲得できないときもあります。それでも、一度自分の主張を納得させられたときの経験は非常にクリエイティブで楽しいです。
軟式テニス部に入っていましたが、他のこともいろいろと忙しく、あまり真面目にやっていませんでした。また、本をたくさん読んでいて、特に小説が好きでした。そのころから脳の仕組みに興味を持ちました。医学部に入った時は、実際の病気の人を診て脳を勉強する精神科と、生物学的に脳の仕組みを解き明かす神経生理学の、どちらに進もうか迷いました。結局、若いうちに研究者の道にチャレンジしようと思い、神経生理学に進みました。
高校2年
西堀 諒,小出 歩,宮本 真生,川村健太郎