スーパーサイエンスハイスクール(SSH)

生徒の研究成果

小さな宇宙、ここにアリ。

私たちは学校のプログラムとして北海道大学の渡部直樹教授の研究室を訪問させていただきました。今回のインタビューのテーマは「宇宙における分子の進化」です。訪問に際して、この研究テーマについて取材してきました。

渡部 直樹先生

何を目的として研究しているのですか

私の研究は極低温状態における特殊な反応を観測することを通して、宇宙における分子進化(原子が分子になり,さらに複雑な分子に進化すること)を探ることを目的として行っています。

研究のモチベーションはなんですか。

それはやはり、私の中に分子進化の現象を見たいという気持ちがあったからです。

未知のことを知りたいのは科学者全員共通しています。ですが、皆が知りたいことだけを研究するのではなく、マイナーな研究も「科学」の進化のためには続けていくべきだと思います。

研究内容を具体的に教えてください。

宇宙に存在する始原的な分子や、真空中では生成されにくい分子がどの様にして誕生したかを研究しています。特に、宇宙に浮遊する0.1ミクロン程度の塵(宇宙塵)の上でしか生成されない水素分子、水分子、ホルムアルデヒド、メタノール、CO2、メチルアミンなどが、どのようにして出来るかを研究しています。

宇宙塵の上の原子などは、量子力学的な効果から、条件がそろえば「トンネル反応」を引き起こします。トンネル反応とは本来反応に必要なエネルギーよりも極端に低いエネルギーで反応することで、物質の質量が小さく温度が低い状態でよくおこります。具体的な例を挙げると、低温の宇宙塵(10K:-263℃)上での水素原子は、その条件を良く満たします。

水素原子がくっつく反応は分子進化の過程で非常に重要です。

この過程は、観測的研究や理論的研究ではわからないことで、自分たちはこれを研究しています。

渡部 直樹先生

そうした様々な反応を経て行われる化学進化ですが、実験における先生の観点はなんですか?

化学進化のプロセスを実験的に見ることに対する私のアプローチは二つあります。

一つは、反応速度をみる。二つ目は、生成した分子のエネルギー状態を調べてその後に宇宙で起こるであろう反応を推測することの二つです。二つ目については、塵の上で反応した際、余ったエネルギーを捨てきれず、気相中に飛び出してしまうものがあります。エネルギーを持ったものは反応しやすいので,宇宙で起こる反応を推測するために、生成直後に持っているエネルギーを知ることは重要です。

また、分子同士が反応したときに発生するエネルギーを手掛かりにして、どのような反応が起こったのか調べることもできます。

こういったアプローチは従来あまりされていませんでした。私はもともと違う研究分野にいたので、違う分野からの視点で研究することが出来ました。

「違う分野からの視点で研究していくこと」が大事だということですか?

はい。これからは、そういう「異分野からの視点で研究すること」が大事になっていくと思います。

同じ分野の研究者だけで閉じて行われた研究を異違分野から見たときに、「そんな危ない仮定をしているのか」、「そんな,すでに行われた研究をしているのか」と思うことがあります。

これを防ぐにはさまざまな分野の研究者同士が交流するべきですが、同業者だけでいたほうが居心地が良いんです。全員が交流しろとは言いませんが、少数の人が交流をするだけでも変わってくると思います。

最終的には分野が統合されるべきでしょうか?

近年の研究は、分野の区切りが曖昧になって統合が進んでいます。

ですが私の意見は、学部教育はしっかり分けるべきだと思います。物理なら物理、地理なら地理、生物なら生物の基礎をちゃんと固めておけば、後から応用が利きますから。初めから広く手をつけると、身につかないのでだめだと思います。

ありがとうございました。

渡部 直樹先生

<実験室にて>

先生は実験することにより結果を得て研究に生かされています。

宇宙空間を再現するため、冷凍庫の役割をする機械や真空を作り出すポンプなどを組み合わせて宇宙空間を再現し、そこで起きている反応を観測しています。宇宙空間を再現する上で重要なことは2つあり、温度と分子数です。宇宙(分子雲)では1、3あたりに分子が106個しかありません。これは地球の1/1013程度です。これほどまでに、分子数が少ないと分子は互いの影響を受けずに独立して動くようになるので、実験装置から掃除機のような原理で単純に吸い取って取り除くことはできません。そこで毎分4万回転のジェットタービンのような羽が付いている真空ポンプが利用され、これで分子を真空外に飛ばします。これをいくつか、装置に組み込むことで2,3日かけて実験装置内のガスを取り除きます。なので、実験を進めることのできる状態にするのに何日もかかってしまうのでほとんど年中無休で装置を動かしています。

このように年中無休で機械を動かすこと、気密性を高くすることや、横倒しでも使用できるような工夫など、地球上で宇宙を作ることの大変さを痛感しました。また、それぞれの実験機器に愛称をつけており、中には『ラスカル』、『ラッシー』などユニークな名前もありました。

渡部 直樹先生

私たちに分かりやすく説明してくださり、また資料を沢山用意されておりとても理解しやすい説明を聞けました。高校時代数学が苦手だったことなど途中に冗談混まじりに話をして頂き最後まで集中が途切れることなく聞くことができました。また、研究に対する考えの中に『研究はどんなに苦しくても一人ではない。いろんな人と議論することによって答えが出ることや、考え直す機会を得ることができるので、研究は全く苦ではない、やることがあるときはむしろ楽しいくらいだ』と仰っており、研究に対する熱心さが伝わってきました。

渡部 直樹先生

高校2年
白川 彩慈,石﨑 千宇,土谷 卓也,浮穴 さに太